スポーツパフォーマンスと菜食、映画ゲームチェンジャーは本当か?査読論文で検証する


Plant-based Body | Lev Plant


はじめに

映画「ゲームチェンジャー」を観た。 菜食に変えたアスリートたちがパフォーマンスを向上させている。衝撃を受けた。これがもし本当なら、真剣にスポーツに取り組んでいる人に自信を持って菜食を勧められる。でも私は映画を観ただけでは確信にはならず、それは本当なのか確かめたい!という気持ちが強くなった。


01|ゲームチェンジャーとは

2018年に公開され、2019年にNetflixで配信されたドキュメンタリー映画。UFC(総合格闘技)のジェームズ・ウィルクス選手が、菜食で活躍するアスリートたちを世界中で取材する内容で、「肉を食べなくてもトップアスリートになれる、むしろ菜食の方がパフォーマンスが上がる」というメッセージを打ち出している。映画に登場するのは、実際に第一線で活躍するアスリートたちだ。 確かに、テニスのジョコビッチ選手をはじめ、菜食を取り入れるトップ選手は増えている。なぜ彼らが菜食を選ぶのか、その理由は思った以上に興味深いものだった。それについては別の記事で詳しく書こうと思っている。


02|制作者は誰なのか?

映画を見た後、私はまず制作者を調べた。 監督は『ザ・コーヴ』でアカデミー賞を受賞したルーイー・サイホヤス(Louie Psihoyos)氏。製作総指揮はジェームズ・キャメロン氏、アーノルド・シュワルツェネッガー氏、ジャッキー・チェン氏、F1王者ルイス・ハミルトン選手、テニスのノバク・ジョコビッチ選手、NBAのクリス・ポール選手と、スポーツ界や映画界の著名人が名を連ねている。中でも強い影響力を持っているのはジェームズ・キャメロン氏。「タイタニック」「アバター」の監督として知られる同氏は、2012年から菜食を実践している。

そして同氏はVerdiant Foodsという植物性タンパク質の会社を2017年に設立・経営していた(2020年に同社を売却している)。この事実は客観的にみると、映画制作当時、「菜食が広まるほど利益を得る立場の人物」が、菜食を推奨する映画を製作していたことになる。 他方で、映画の制作意図と個人の信念とビジネスが一致しているだけとも言える。実際、キャメロン氏は2011年にドキュメンタリー「Forks Over Knives」を観て、100%プラントベースへの切り替えを即決した。健康・環境・動物、三つすべてを動機として持つ人物だ。映画「アバター」の撮影現場では130人のスタッフ全員を集めてメッセージと一致した生き方をすると宣言し、現場ではスタッフ全員菜食にしたという。私が知ることができる背景から推測するに、信念と、それを広めるための戦略が同居している人物なのだろう。

ただ映画の中でこの関係は説明されていない。その事実を知った上で観るのと、知らずに観るのとでは、受け取り方が変わるかもしれない。


03|批判者は中立的な立場か?

映画への批判もあった。栄養学者のレイン・ノートン博士は「チェリーピッキング(都合の良いデータだけを使う手法)だ」と指摘している。確かに、この批判には一理あると思う。 ただ批判者の中には、ケトジェニック食や動物性食品を推進する立場の人が多かったのも事実。彼らもまた、自分の立場から話している。 誰の言葉も、その人の立場とセットで受け取って欲しいと思う。誰でも自分の信念や主張が正当だと信じているからだ。だから時に、情報が自分の主張にとって都合のいいこと・悪いこととして選別されることがある。それはこの映画の批判者に対しても、この記事を書いている私に対しても、同じである。


04|査読済み論文で確認する

「査読済み論文」とは、専門家による審査を経て学術誌に掲載された研究である。すべてが正しいわけではないが、個人の体験談や主張とは異なり、一定の検証プロセスを経ている点で信頼できると思う。 映画の主張を確認するために、いくつかの研究を調べた。結論から言うと、結果は割れていた。 菜食がパフォーマンスや回復力に良い影響を与える可能性を示す研究がある一方 [1][2]、差がないとする研究もあった [3]。特に筋力や筋肉量については、動物性タンパク質との比較でまだ議論が続いているようだ [2][3]。菜食でも、栄養の設計次第でアスリートのパフォーマンスを支えることができるのは多くの菜食アスリートが証明している [4]。 ただ注意が必要なのは、研究者たちの意見が比較的一致している「何を食べるかより、何をどのように食べるか」という点。菜食に変えても、それが超加工食品を中心にしていては健康リスクが高まるということだ。 そして現時点で比較的研究が進んでいるのは、完全菜食でも肉食でもなく、地中海食だった [5][6]。


05|ゲームチェンジャーの功罪

映画を見て、制作者を調べて、批判者を確認して、論文を調べた。その上で、私が感じたことを正直に書こうと思う。 ゲームチェンジャーの主張は、その方向性自体は概ね正しいと思った。菜食がパフォーマンスや健康に良い影響を与える可能性は、複数の研究が示しているからだ。きっと、これらの研究結果が多くのアスリートが菜食を採用しているという世界の流れの一翼を担っているのではないだろうか。 そして恐らくこの映画を観て、私のように菜食とパフォーマンス向上に関心を持った人も少なくはないだろう。菜食の可能性、世界の流れを多くの人に伝えるという役割を果たしたという点は称賛に値する。 ただし映画は、都合の良いデータを強調して、都合の悪いデータや注意点には触れていなかった。シンプルでわかりやすくはあるが、少し誠実さに欠ける、そこが残念なところだ。栄養バランスや調理方法などの注意点を持たずに菜食に切り替えたときのリスク。健康維持の観点からは、少なくともこれは伝えるべきだったと思う。


06|結論:真剣にスポーツに取り組んでいる人に勧められるか?

これが私の最初の問いだった。 答えは…菜食にすること自体は勧められる。ただし栄養の偏りには注意が必要で、菜食に不足しがちなビタミンB12・鉄・亜鉛・オメガ3などは意識して補う必要があるということだ [4]。栄養が偏れば、健康上のリスクが高くなる。また、先にも触れたように、どのように食べるか——そのまま生で食べるのか、加熱するのか、加工食品を摂るのか——などの調理方法も重要である。パフォーマンスを上げようとして、健康を害していたのでは本末転倒である。健康とパフォーマンス向上は両輪でなければならないと私は考えている。健康的に菜食に切り替える方法は、また別の記事で書きたいと思う。 映画が描くような劇的な効果が「全員に」起きるとは言えないかも知れない。ただ、食生活の変化が大きい人ほど、体感として大きく変わる可能性はかなり高いと思う。今よりパフォーマンスを向上させたいと思った時に、菜食を試してみる価値は十分あると思う。 そもそも私がこの映画を見たのは、知人の体験談がきっかけだった。スポーツに取り組む彼が、菜食中心に少しの魚介類を加える食生活に変えたところ、体が軽く動きがよくなり、それまで予選落ちしていた全国レベルの大会で優勝できたという話を聞いたからだ(しかもアレルギーも改善したとのこと)。菜食とスポーツパフォーマンスの関係にとても興味がわいた。ジョコビッチ選手が語ることと、知人が体験したことは、論文の平均値には現れない話かもしれない。でも、それも真実だと思う。現時点での研究で証明されていることだけがすべてではないからだ。そして、よいと言われていることを実際にやってみた結果、自分に合うかどうか、これが一番重要である。


おわりに

この記事を書いている私自身は、菜食主義であるため、基本的には、菜食を勧めたいと思っている。それは動物のことを考えたとき、できるだけ奪わない選択をした方がいいと思うからだ(言葉に縛られたくないため、ヴィーガンという言葉はあまり使わないが、それに近い思想に基づく菜食である)。でも、私の立場にとって都合の悪いデータも正直に書きたいと思っている。たとえそれが動物のことを思ってだとしても、信念に基づくものだとしても、自分の都合のために隠したことの上には、私の描く理想の世界は創れないと思っているからだ。 そして、菜食を勧めたいと思う理由が、実はもう一つある。肉にされる家畜がどういう環境に置かれているかという点だ。現状の飼育方法、屠殺の際の恐怖や苦痛、ストレス。それを考えると、その肉から栄養やエネルギーをとることは、人間の心や体にどんな影響を及ぼすのだろうか、と。これは科学的な話でもあるし、もっと根本的な話でもある。このことは別の記事で書こうと思っている。

※ このブログは情報提供を目的としており、医学的アドバイスの代替となるものではありません。


【参考文献】

[1] Damasceno YO, et al. Plant-based diets benefit aerobic performance and do not compromise strength/power performance: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Nutrition, 2024;131(5):829–840. [2] Sarmento TC, et al. Plant-Based Diet and Sports Performance. ACS Omega, 2024;9(49):47939–47950. [3] Hevia-Larraín V, et al. High-Protein Plant-Based Diet Versus a Protein-Matched Omnivorous Diet to Support Resistance Training Adaptations: A Comparison Between Habitual Vegans and Omnivores. Sports Medicine, 2021;51(6):1317–1330. [4] Rosenfeld RM, et al. Plant-Based Nutrition and Supplements for Optimal Athletic Performance. American Journal of Lifestyle Medicine, 2025. [5] Bianchi E, et al. Impact of the Mediterranean Diet on Athletic Performance, Muscle Strength, Body Composition, and Antioxidant Markers. Nutrients, 2024;16(20):3454. [6] Fiorini S, et al. Mediterranean Diet and athletic performance in elite and competitive athletes: a systematic review and meta-analysis. Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases, 2025;35(11):104165.


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